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ではその価値が半減してしまいます。それぞれの独自性と共通性とを踏まえて、適宜関連を図る必要があるのです。

 

3 環境教育とSTS教育
STSとは、「科学・技術・社会」(Science,Technology,and Society)の略です。またSTS教育とは、科学、技術、及び社会という三者の相互作用に関する教育です。あるいは科学・技術に深く関連した社会的問題の教育と言うことができます。このSTS教育は、イギリスやアメリカなど先進国の、とりわけ理科教育で大きな運動となっています。大きなうねりとなったのは1980年頃からで、例えば、イギリス理科教育の推進母体であるASE(The Association for Science Education)は1984年に『科学を考え直してみませんか−科学をその社会的文脈において教える−』という報告書を出版していますll))。またアメリカの理科教育関連学協会の連合体であるNSTA(The National ScienceTeachersAssociation)の1985年報のタイトルが、まさに「科学・技術・社会」となっているのです11)。こうした動きの背景としては、大別して次の三つのことが指摘できます。
?@環境破壊、原子力発電、遺伝子操作など科学・技術に深く関連した数多くの社会問題が顕在化したこと。
?A科学・技術は国家の存亡にかかわるほど強大な力をもつ一方で、その研究活動自体が国家社会機構の中に一層深く組み込まれてしまったこと。
?B科学史、科学哲学、科学社会学など、科学についての研究が進展し、「人間の社会的な営みとしての科学」という科学観が流布したこと12)。
つまり端的な表現をすれば、科学を現実の人間社会に据えてリアルに理解する必要性が生じた、と言ってよいでしょう。科学技術時代における民主社会の一員として科学と社会との関連を批判的に理解し、科学・技術と深く関連した社会問題の解決のために主体的に思索し行動する市民を育成することが重要である、と考えられているのです。
さてこのようなSTS教育は、環境教育とどんなかかわりがあるのでしょう。環境破壊は、技術(そして科学)の社会的な位置付けの失敗によるところが大きいと見ることができます。科学が技術に応用され、それが産業界によって利用された。その際科学・技術の特性が十分把握されずに、あるいは利用結果の影響を事前に十分吟味されないまま利用されたがために起こった環境問題が多いことは、よく知られています。ですから環境教育の内容として、科学、技術、及び社会の相互関連の理解が大切であるのは言うまでもないことです。しかし環境教育がSTS教育を包含するとか、逆にSTS教育が環境教育を包含するとか言い切れるほどの共通理解はできていません。環境教育は、環境を保全し持続可能な社会を築くのに相応しい人間を育成する、という究極の目標をもっています。STS教育には、今のところそのような合意した究極目標がありません。あえて言うなら、科学そのもの、技術そのものについて冷静に批判的に考える力を養い、民主社会の一員としてそれらに主体的にかかわって行くことのできる市民を育成することを目指している、ということになるでしょう。
なお、旧学習指導要領下の高校における「現代社会」や「理科」といった科目、現行学習指導要領下の高校における(総合理科」や「物理A」等のAが付された科目には、STS教育的色彩をもつ教材がいくらカ)認められます。STS教育について詳しく言及することが紙幅の都合でできません。最後に先述のASEによるSATIS(Science and Technlogy in Society)開発の目的13)の一部を次に掲げるとともに、章末に参考文献を示しておきます14)。

 

 

 

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